企業グループを対象とする会計制度や法制度の整備が進む中、また、持株会社制のような法人グループの組織形態の多様化に対応し、課税の中立性や公平性を担保するための税制度として、平成22年度税制改正において資本に関係する取引等に係る税制としてグループ法人税制が導入されました。
グループ法人税制とは、100%の資本関係にある内国法人間で行なわれる一定の資産譲渡、寄附、配当、株式の発行法人への譲渡等につき、税務上は損益を認識しない仕組みをいいます。グループ法人税制は、完全支配関係(100%の資本関係)にある企業グループを経済的に一体性のあるものとして課税を行う制度であり、連結納税制度を発展するかたちで制度化されました。
なお、100%の資本関係とは完全支配関係のある法人グループをいい、完全支配関係とは以下のいずれかの関係がある場合となります。
「一の者」とは内国法人だけではなく、個人も含まれます。また、外国法人が介在する支配関係であっても、完全支配関係が成立する点にご留意ください。但し、グループ法人税制の適用自体は、原則として内国法人間の取引に限定されております。
完全支配関係の判定においては、従業員持株会や役員・使用人のストックオプション行使による所有株式の合計が発行済株式数の5%未満である場合には、これらの株式を除いて判定することとされております。
グループ法人税制の個別条文は以下のとおりとなっておりますが、以下に該当する取引については任意適用でなく強制適用となる点にご留意ください。
内容 | 備考 | |
資産の移転 | 100%グループ内の内国法人間で一定の資産の移転を行なったことにより生ずる譲渡損益を、譲受法人においてその資産の譲渡等の事由が生じたときに、その譲渡法人において計上する | 法人税法61条の13 |
寄附金 | 100%グループ内の内国法人間の寄附金について、支出法人において全額損金不算入とするとともに、受領法人において全額益金不算入とする | 法人税法25条の2、37条2項 |
現物配当 | 100%グループ内の内国法人間の現物配当(みなし配当を含む)について、当該現物分配の、現物分配法人の直前の帳簿価額による譲渡をしたものとする | 法人税法第62条の5第3項 |
配当金 | 100%グループ内の内国法人からの受取配当について益金不算入制度を適用する場合には、負債利子控除を適用しない | 法人税法23条4項 |
株式譲渡 | 100%グループ内の内国法人の株式を発行法人に対して譲渡する場合(自己株式の譲渡)、当該株式の譲渡損益の計上を行なわない | 法人税法第61条の2第16項 |
中小企業向け特例の見直し |
資本金の額が1億円以下の中小法人に係る次の制度については、資本金の額が5億円以上の法人の100%グループ内の法人には適用しない - 軽減税率 - 特定同族会社の特別税率の不適用 - 貸倒引当金の法定繰入率 - 交際費等の損金不算入制度における定額控除制度 - 欠損金の繰戻しによる還付制度 |
法人税法66条6項二等 |
グループ法人税制 | 連結納税 | |
制度の選択 | 強制適用 | 任意適用 |
対象法人 | 100%保有(直接又は間接)される内国法人 | 連結親法人と当該連結親法人に100%保有(直接又は間接)される内国法人 |
法人税の申告義務 | 各法人 | 連結親法人 |
地方税の申告義務 | 各法人 | 各法人 |
事業年度 | 各法人の事業年度 | 連結親法人の事業年度 |
グループ内法人における損益通算 | 通算されない | 通算される |
資産譲渡に係る譲渡損益の繰延 | 繰延 | 繰延 |
グループ内の寄附金 |
支払法人:損金不算入 受取法人:益金不算入 |
支払法人:損金不算入 受取法人:益金不算入 |
グループ内の受取配当金 | 全額益金不算入 | 全額益金不算入 |
保有資産の時価評価 | - |
原則として、連結納税加入時に時価評価 (但し、一定の要件のもと時価評価対象外となる) |
繰越欠損金 | - |
原則として、連結納税加入時に切捨て (但し、一定の要件のもとみなし連結欠損金として使用可) |
軽減税率 |
適用有り (但し、親法人の資本金が5億円以上の場合には適用無し) |
連結親法人の資本金が1億円以下の場合には適用有り |
貸倒引当金の計上 | グループ内法人に対する債権についても対象 | グループ内法人に対する債権については対象外 |
貸倒引当金の法定繰入率 |
適用有り (但し、親法人の資本金が5億円以上の場合には適用無し) |
連結親法人の資本金が1億円以下の場合には適用有り |
税額控除 | 各法人毎に控除限度額を計算 | グループ全体にて控除限度額を計算 |