事業譲渡(営業譲渡)とは、売り手が有する資産及び負債を個別に買い手に譲渡する方法である。
会社法における組織再編行為に該当しないことから、合併や会社分割等の組織再編行為と比べ以下の特徴を有する。
(債権者保護)
譲渡に際しては、会社分割等で必要となる債権者保護手続きは不要であるが、債権者の個別同意が必要なことから手続き自体は一般に煩雑となる。
(許認可)
譲渡対象の事業に許認可が必要な場合には、新たに取得が必要となる。
(簿外債務)
契約書に明示されない債務については、買い手は承継する義務を負わない。
買い手が売り手の債務状況を十分に調査できないケースにおいては、事業譲渡の手法を用いることが簿外債務の承継という観点からは大きなメリットとなる。
(従業員)
事業に従事する労働者と個別交渉が必要となる。
(税制)
税務上は時価取引として譲渡損益が課税対象となる。また、個別資産の移転となるため消費税については課税対象となる。
会社分割とは、会社の事業の全部又は一部を他の会社に包括的に承継させる組織再編行為である。
会社法上の組織再編行為に該当することから、債権者保護手続きは必要となるものの事業に関連する債権・債務を包括的に新会社又は既存の会社へ承継が可能である。また、税務上も適格要件を満たす一定の場合には譲渡損益の繰延を行う取り扱いとなっている。
会社分割には、分割した事業の承継先が既存の会社であるか又は新会社であるかにより、新設分割と吸収分割に類型化される。吸収分割の場合には、非承継会社の観点からは会社分割となり、承継会社においては吸収合併の形態となる。
自社株対策においては、利益部門を新設分割することで純資産価額方式及び類似業種比準方式のいずれにおいても1株当たり株式価値を引き下げることが可能となる場合がある。
事業譲渡と会社分割とを比較すると、売り手会社の事業が移転するという点で類似しているが、会社法上の組織再編行為に該当するか否かの点で異なることから、以下のとおりの違いがあります。また、課税ストラクチャーが異なることから同じ事業を移転する場合でも経済的な対価は異なることとなります。
事業譲渡 | 会社分割 | |
会社法の組織再編行為か否か | 該当しない | 該当する |
契約関係 | 個別承継 | 包括承継 |
債権者保護 | 個別同意 | 原則、債権者保護手続が必要 |
簿外債務の引継ぎリスク | 原則として無し | 有 |
許認可 | 再取得が必要 | 自動的に承継 |
従業員 | 個別同意 |
包括承継 (但し、労働者保護手続きが必要) |
税制 | 時価取引として譲渡損益が発生 |
税制適格:譲渡損益の繰述 税制非適格:時価取引として譲渡損益の発生 |
上記のとおり、会社分割では債権者保護手続きが必要となります。
原則として分割承継会社では官報での公告と個別催告が必要となりますが、官報と日刊新聞紙の公告又は官報と電子公告を行うことで個別催告は不要となります。
また、分割会社では、分割後に分割会社に債務の履行を請求できない債権者に対して保護手続きが必要となりますが①分割承継会社が承継する債務を、分割会社が全て重畳的に債務引き受けする場合②承継会社が承継する債務を分割会社が全て連帯保証する場合には実質的に影響がないことから債権者保護手続きの省略が可能となっております。
会社法の一部を改正する法律(平成26年6月27日公布)では、分割後における分割会社の債権者が詐害的な会社分割に係る行為を取消すことなく、承継会社に対して承継した財産の価額を限度として債務の請求ができる旨の規定が新設されております。これにより、分割会社の優良資産が承継会社に引き継がれた結果、分割会社からの回収ができない場合においても、承継会社に対する請求権が明示されることとなりました。
事業譲渡(営業譲渡)は譲渡対象となる事業に係る資産及び負債の一切を含めて譲渡する契約であり、そのうち資産の譲渡については、個々の課税資産と非課税資産を一括して譲渡を行う取引であることから、課税資産と非課税資産の対価の額を合理的に区分して消費税を課税することとなります。
なお、事業譲渡契約書においては譲渡対価の総額に加えて、個々の資産負債の譲渡対価を合理的な基準により算定を行い記載ことが望ましいと考えられます。
また、外国法人の支店が事業譲渡を行う場合には、基本的に内国法人における事業譲渡と同様に個々の資産の課税・非課税区分に拠ることになりますが、著作権やノウハウ等の権利に関する譲渡については外国親会社の所在地に基づき国外取引として判定を行うことから不課税取引として取扱われます。
合併におけるケースと同様、会社分割における資産の包括承継については消費税は課税されません(不課税)。