株価算定方法(企業価値算定方法)の代表的な各手法の比較は以下のとおりであるが、どの評価手法を適用するかは案件の背景や取引目的等により案件ごとに違いがあるため、取引の形態(株式売却、事業譲渡、合併、会社分割、株式移転、株式交換、相続等)、取引の主体(大株主、少数株主、同族株主、零細株主等)、株式の流通状況(上場・非上場、譲渡制限の有無)等に応じて慎重に判断を行い株式価値評価・事業価値評価を算定する必要があります。
また、相続税における非上場株式(未公開株式)の評価額はあくまでも課税目的の評価額であるため、個人から個人への相続以外の場面においては、各関係者の利害調整が重要となってくることから、DCF法等による経済的価値算定も勘案したうえで株価算定方法の選択を行うことが望まれます。
評価アプローチ | 評価方法 | 説明 | 特徴 | |
インカム・ アプローチ |
DCF法、APV法、ECF法 | 評価対象会社が将来創出すると期待されるキャッシュフローを現在価値に割り引いて事業価値ないしは株式価値を算定する方法 | 最も理論的な方法であり実務的にも幅広く採用されているが、キャッシュフローの予測及びリスクの予測に高度な専門性を要する | |
評価対象会社から期待される利益ないしキャッシュフローに基づいて価値を評価する方法 |
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収益還元法 | 評価対象会社の適正利益を現在価値に割り引いて事業価値ないしは株式価値を算定する方法 | 簡易なDCF法の一種であり、将来利益の予測及びリスクの予測に不確定要素を含む | ||
配当還元法(DDM法) | 評価対象会社の将来期待される配当金を資本還元して株式価値を算定する方法 | 少数株主の持分に対する評価に利用される。安定した一定の配当が見込まれる企業にのみ適用可能 | ||
財産評価基本通達に定める一定の計算式に基づき、取引相場のない評価対象会社の過去の配当実績に基づき株式価値を評価する方法 | 相続税における零細株主(同族株主以外の株主等)に対して用いられる方法 |
評価アプローチ | 評価方法 | 説明 | 特徴 | |
マーケット・ アプローチ |
市場株価法 | 上場会社の株価を株式価値とする方法 | 上場会社にのみ適用可能な方法 | |
株式市場における一定期間の株価若しくは、評価対象会社と類似する上場会社や類似取引と比較することで、相対的な価値を評価する方法 | ||||
株価倍率法 (類似会社比較法) |
上場類似会社の時価総額ないしは事業価値と財務数値との倍率を基に、評価対象会社の株式価値を算定する方法 | 上場類似会社との比較になるため、評価対象会社が一定規模でないと適用が困難 | ||
類似取引比較法 | 類似する取引と財務数値等との倍率を基に、評価対象会社の株式価値を算定する方法 | 独立した第三者間取引を一定の取引量について観察可能な場合に適用が可能 | ||
財産評価基本通達に基づく相続税評価であり、取引相場のない株式を国税庁が発表する類似業種の業種目に属する上場会社の業績等を基礎として株式価値を算定する方法 | 相続税評価時に適用可能な方法 |
評価アプローチ | 評価方法 | 説明 | 特徴 | |
コスト・ アプローチ |
簿価純資産法 | 評価対象会社の貸借対照表記載の純資産を株式価値とする方法 | 評価対象会社に多額の含み損益が内在しないことが前提となる | |
評価対象会社の純資産に着目して価値を評価する方法 |
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修正簿価純資産法 | 評価対象会社の資産及び負債に重要な調整項目を加味して株式価値を算定する方法 | 実務上、株式の取引価格の目安とされることもあるが、継続企業を前提とした場合には、静的価値に着目した方法であるため理論的ではない方法 | ||
時価純資産法 | 評価対象会社の資産及び負債を時価評価し株式価値を算定する方法(清算価値で資産及び負債を評価する場合は清算価値法と称される) | 対象会社の清算を前提に採用される方法 | ||
財産評価基本通達に基づく相続税評価であり、取引相場のない株式を税務簿価に一定の調整を行った純資産額で評価する方法 | 相続税評価時に適用可能な方法 |
上記のとおり、株価算定における評価アプローチ及び評価方法には多様な方法があるため、評価の目的、評価対象会社が置かれる状況、利害関係者における評価結果の利用方法等を総合的に勘案し評価結果を決定する必要がある。また、単独又は複数の評価方法を採用した場合において最終的な評価額をどのように決定するかについては以下のとおりような方法が企業価値評価ガイドラインにおいて示されている。
なお、折衷法については、折衷割合の設定に恣意性がはいることから、一般的にはM&Aの取引において使用されるケースは少ないものの、裁判目的の評価においては各種の利害関係の調整機能を目的として採用されているケースもある。
総合評価の方法 | 内容 |
単独法 | 評価アプローチの中から特定の評価法を単独で適用して、価値評価を行う方法 |
併用法(重複幅併用法) | 複数の評価法を適用し、一定の幅をもって算出されたそれぞれの評価結果の重複等を考慮しながら、評価結果を導く方法 |
折衷法 | 複数の評価法を適用し、それぞれの評価結果に一定の折衷割合を適用して、加重平均値から評価結果を導く方法企業価値等形成要因は評価対象会社によって様々であり、評価法にはそれぞれ長所・短所がある。当該評価対象会社の価値形成要因が単純で、それを評価する方法 |
非上場会社において株価算定(企業価値算定、事業価値算定)が必要となる局面は以下のとおり多種多様であり、局面毎に上記より適切な価値算定方法を選択する必要があります。
-M&Aにおける株式の取得価格若しくは株式の売却価格決定の際の株価算定
-株式公開途上におけるVC(ベンチャーキャピタル)から資金調達を実施する際の株価算定
-第三者割当増資の際の株価算定
-取引先等より自己株式を取得する際の株価算定
-少数株主より株式を取得する際の株価算定
-スクイーズ・アウト(少数株主排除)の際の株価算定
-退職した従業員より株式を取得する際の株価算定
-ストックオプションを付与する場合の行使価額算定やオプション価値評価の一部としての株価算定
-新株予約権付社債や種類株式等の際の株価算定
-同族株主間での株式移動を行う際の株価算定
-社長等の役員より株式取得若しくは株式売却を行う際の株価算定
-事業承継の際の株価算定
-相続の際の株価算定
-現物出資時における財産の価額の証明
なお、日本公認会計士協会が公表している企業価値評価ガイドラインによると、株価算定の目的例としては以下の区分にて分類例が示されている。
目的 | 内容 |
取引目的 | 株式譲受・譲渡 |
合併 | |
株式移転 | |
株式交換 | |
その他 | |
裁判目的 | 買取価格決定 |
売買価格決定 | |
その他 | |
その他の目的 | 裁判目的のなかでも取引目的に近いもの |
処分目的 | |
課税目的 | |
PPA (Purchase Price Allocation)目的 |
転換権付優先株式、無議決権株式、配当優先株式等の種類株式については、その行使条件により、ブラック=ショールズ・モデルや二項モデル等の、多様な評価モデルの構築が必要となります。また、転換権付社債(転換社債)等についても同様に、その条件設定を慎重に評価モデルに反映することが必要となってきます。
より具体的な評価の手法については、種類株式の評価を参照ください。