普通株式の株価算定方法においては、DCF法、株価倍率法及び純資産法等の一定の評価方法が確立されているといえますが、種類株式における株式評価の計算方法は、個々の事案の権利内容に依ることから必ずしも確立されていないケースもあります。
ただし、普通株式及び種類株式を上場・非上場に類型化を行うことで評価方法の選定にあたって、一定の示唆を得ることが可能と考えられます。
発行する株式の種類の区分 |
普通株式 上場/非上場 |
種類株式 上場/非上場 |
各種類の株式の価値 |
取得請求権と取得条項のいずれも有しない株式のみを発行 | 上場 | 上場 | 市場で「普通株式」と「種類株式」の株式価値が決定される。 |
非上場 | 市場価値のある上場「普通株式」を基準とし、これを配当(及び残余財産の分配)等の権利内容の相違により算出された比率で割り返すことで種類株式の価値を算出する方法(優先条件比較法)も考えられる。 | ||
非上場 | 上場 | 市場価値のある種類株式を基準とし、これを配当(及び残余財産の分配)等の権利内容の相違により算出された比率で割り返すことで「普通株式」の価値を算出する方法も考えられる。 | |
非上場 | 現行の企業価値算定実務により算定された企業価値を配当(及び残余財産の分配)等の権利内容の相違により算出された比率で按分した金額を、「普通株式」及び種類株式の各株式価値とすることも考えられる。 | ||
取得請求権と取得条項のいずれか又は双方を有する株式を発行 | 上場 | 上場 | 市場で「普通株式」と「種類株式」の株式価値が決定される。 |
非上場 |
市場で「普通株式」の株式価値が決定される。 取得請求権と取得条項のいずれか又は双方を有する種類株式の価値は、取得の対価等に基づいて個別に評価されると考えられる。 |
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非上場 | 上場 | 市場価値のある上場種類株式を基準とし、これを配当(及び残余財産の分配)等の権利内容の相違により算出された比率で割り返すことで「普通株式」の価値を算出する方法も考えられる。※1 | |
非上場 |
取得請求権と取得条項のいずれか又は双方を有する種類株式の価値は、取得の対価等に基づいて個別に評価されると考えられる。 非上場の「普通株式」の評価については、現行の企業価値算定実務により算定された企業価値を配当(及び残余財産の分配)の相違により算出された比率で按分し、このうち「普通株式」に係る金額を「普通株式」の株式価値とすることも考えられる。※2 |
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出典:種類株式の時価評価に関する検討(日本公認会計士協会 租税調査会研究資料第1号) |
※1ただし、この場合の種類株式の時価は、あくまで取得対価の評価額に近似したものとなる可能性もあり、この場合、当該企業の正しい価値を反映しない可能性もある。
したがって、これを配当(及び残余財産の分配)等の権利内容の相違により算出された比率で割り返すことで算定された金額は、「普通株式」の株式とは乖離する可能性がある。
この場合、非上場の「普通株式」の評価については、現行の企業価値算定実務により算定された企業価値を配当(及び残余財産の分配)の相違により算出された比率で按分し、このうち「普通株式」に係る金額を「普通株式」の株式価値とすることも考えられる。
また、そもそも当該種類株式の評価を社債類似株式同様にとらえ、非上場の「普通株式」の評価については、現行の企業価値算定実務により算定された企業価値を適用する方法も考えられる。
※2しなしながら、このケースの種類株式の時価を本来取得対価の評価額に近似したものととらえる考え方によると、上記当該企業価値を割り返す方法においては、「普通株式」の評価額は正しい企業価値を反映しない可能性もある。
したがって、そもそも当該種類株式の評価を社債類似株式同様にとらえ、非上場の「普通株式」の評価においては、現行の企業価値算定実務により算定された企業価値を適用する方法が妥当であると考えられる。ただし、取得対価が「普通株式」あるいは新株予約権等である場合には、この限りではない。