(DCF法 (Discounted Cash Flow法) )
DCF法とは、評価対象企業の将来フリーキャッシュ・フローの割引現在価値の合計により企業価値評価を行う手法である。
株式価値を算定する場合には事業から生み出される価値である事業価値に、売却可能な有価証券や遊休不動産等の非事業資産を加えた後、有利子負債等の株主に帰属しない価値を控除することで株式価値を算定する。
(WACC (Weighted average cost of capital))
WACCとは、加重平均資本コストであり株主資本コストと有利子負債コスト(税引後)を時価ベースの株主資本及び負債にて加重平均を行い算定された割引率である。WACCを算定する際の資本構成は、評価時点の資本構成ではなく目標とする時価ベースの資本構成を用いることが理論的とされている。
(CAPM (Capital Asset Pricing Model))
CAPMとは、株式のリスクと株式期待収益率を関連付けるモデルの1つのモデルであり、実務上、最も広く採用されている方法である。効率的な市場にて分散可能な投資家との仮定のもと、リスクフリーレート、β(ベータ)、マーケットリスクプレミアムの3つのインプットデータをもとに、株式期待収益率を推定する。
株主資本コスト=リスクフリーレート+β×マーケットリスクプレミアム
上記の算式をベースに、評価対象会社の企業規模、事業リスク及び財務リスクを加味し、株価算定に適用される株主資本コストが決定される。
(β)
βとは、株式市場における個別銘柄と市場全体の相関関係を示す指標であり、市場全体が変動した場合に個別銘柄がどの程度変動するかを表す。例えば、βが1のケースでは個別銘柄は市場全体と同様の動きを行い、βが0.5のケースでは市場全体の動きに対し個別銘柄が半分の動きを行うことを示している。
βには対象企業の資本構成を反映したLevered β(レバードベータ)と、事業リスクのみに着目し財務リスクが無い(有利子負債が無い)と仮定した場合のUnleveredβ(アンレバードベータ)がある。
フリーキャッシュフロー(FCF)とは、企業に対する金融機関及び株主等の全ての資金拠出者に分配可能なキャッシュフローであり、以下の算式にて計算される。
EBIT(税引前利息支払前利益)
- EBITに対する法人税等
+ 減価償却費等の非現金支出費用
- CAPEX(設備投資額)
± 運転資本の増減
--------------------------------
= フリーキャッシュフロー
1年目 | 2年目 | 3年目 | 4年目 | ・・・・・・ | |||||
事業価値 | = | FCF | + | FCF | + | FCF | + | FCF | ・・・・・・ |
(1+WACC) | (1+WACC)2 | (1+WACC)3 | (1+WACC)4 | ||||||
FCF:フリーキャッシュフロー | |||||||||
WACC:加重平均資本コスト | |||||||||
※各期のキャッシュフローは期末に発生すると仮定 |
継続企業の前提のもとで事業価値の算定においては将来のわたるフリーキャッシュフローの見積が必要となりますが、キャッシュフロー予測期間を超える期間については、一定の仮定を用いて価値算定を行います。
継続価値の算定は、以下の算式により計算されることとなります。
継続価値= 継続期間に予想されるFCF ÷ (割引率 - 永久成長率)
OECD加盟国によって進められてきた、税源浸食と利益移転に対応するBEPSプロジェクト(Base Erosion and Profit Shifting)において、国境を越えた関連者間における特許権やブランドなどの無形資産の移転に伴う所得移転を防止するため、評価困難な無形資産(Hard-to-value intangibles:HTVI)に関する独立企業間価格(Arm's length price:ALP)の算定に関して、以下の全ての要件を満たす場合にはDCF法による評価によることが示されております。
①固有の特性を有し、かつ、高い付加価値を創出するために使用されるものであること
②無形資産に係る予想利益の額を基礎としてその独立企業間価格を算定するものであること
③無形資産に係る予想利益の額その他の独立企業間価格を算定するための前提事項が著しく不確実な要素を有して
いると認められるものであること
評価困難な無形資産(HTVI)が関わる特定無形資産国外関連取引の独立企業間価格(ALP)の算定に際しては、取引開始後の利益獲得状況などの実態を参照して、無形資産に対する対価の再精算が求められます。
納税者が設定した無形資産に関する対価と取引開始後の利益獲得状況等を反映して算定したALPが、取引開始後5年以内に20%以上乖離した場合には、対価の再精算を要することとなります。